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第2話プロローグ

 投稿者:語り  投稿日:2018年 8月 5日(日)03時17分55秒
編集済
   ディートリンデの亡命を阻止してシュタールに帰還してから、1週間が経っていた。
 アマールではスヴェニーが『ローズ・スパイン』の引き揚げ作戦を開始したという情報を耳にしていたが、ライとターニャは以前と変わらずひたすら国境防衛に奔走していた。いや、ディートリンデが抜けたことでハラルドの『シュトルムイェーガー』が不稼動となってしまった分、以前よりも遥かに負担が増している。正直、ディートリンデのことや『ローズ・スパイン』のこと、そしてノイシュタールで治療を受けているはずのトゥアンのことが気にはなっても、ライとターニャにはそれらに心を配る余裕は全くなかったのであった。
 そんなある晩、市外の巡回を終えて騎士団宿舎に帰ってきたライとターニャは、休む間もなくハラルドに呼び出されていた。

「軍団長、お呼びですか?」

 ハラルドの執務室に入ったライとターニャは、自分たちと入れ替わりに出撃するはずのアンドレとソスランもその場に居合わせているのを見て、瞬時に自分たちが重大な局面を迎えたことを理解した。その証拠に、4人を前にしたハラルドもいつになく厳しい表情をしている。しばしの沈黙の後、ハラルドはようやく重い口を開いた。

「4人とも、心して聞いてくれ……3日前、デル=ギーレ13世皇帝陛下率いる白騎士団及びシュヴァルツ騎士団東方第1軍約40騎は、ついにロゼア王国と交戦し……そして惨敗を喫した。両騎士団は壊滅、敵封神騎によって戦列に加わった陸軍も撃破され敗走……マルスグラードはロゼアに占領されたそうだ……」
「何ですと!?」

 信じられない内容の報告に、アンドレが言葉に詰まる。もちろん、驚いたのはライも同様だった。

「報告によると、仔細はこうだ……アンドゥリル川にかかる橋を挟んで両軍が睨み合って一夜明けた早朝、ロゼア軍の封神騎がついに橋を渡り攻め込んで来た。敵騎数は15騎前後、うちA級封神騎の可能性もある正体不明騎が5騎ほどあったそうだ」
「15騎とは、ロゼアの公式所有数の3倍じゃないですか……!? しかし、それでも我が軍の半数以下ですし、正体不明騎がA級だったとしてもノイエ・テンプルのホルテン・クライファート様とフィネガス・フェック様がおられたはずでは……」

 ライの質問に、ハラルドは頷いた。そして次に言葉にしたのは、さらなる驚愕の事実だった。

「敵軍にA級封神騎がいると見たクライファート卿とフェック卿は自ら先陣に立って敵封神騎を迎撃しようとした。だが接敵寸前に、封術士が集まる後方陣地に突然敵が出現し、襲撃を受けた。敵はたった1人だったが恐ろしい手練れで、護衛の兵士ごと40名の封術士をほぼ瞬殺したそうだ……クライファート卿のパートナー・リンドナー卿と、フェック卿のパートナー・ボストーク卿だけは遺体がなく、敵に連れ去られたのだろうと目されているが……」
「馬鹿な……そう簡単に後方の封術士陣地に敵が入り込むなどあり得ない……」
「無論、普通ならば不可能だ。だがどういう手段を用いてか、敵はそれをやってのけた。結果、我が軍の封神騎約40騎はことごとく不稼動となり、搭乗していた騎士はクライファート卿・フェック卿を含め、多くが脱出する間もなく封神騎ごと敵に捕獲されたらしい。こうして敵の封神騎は易々と前線を突破して一般兵を蹂躙し、さらにマルスグラードを陥落させたのだ」

 厳重な警備下にある封術士の陣地にたった1人幻のように現れ、50人以上を殺すことの出来る者がロゼアにいるのだろうか。そんなことが可能なら……と、そこまで考えたライははっとした。

「陛下は!? 皇帝陛下はどうされたのですか!? まさか……!」
「陛下はご無事だ。災い転じて……というべきか、ディートリンデの事件に関わったために合流が遅れたメイファ卿が、敵の包囲を強引に突破して陛下をお救いしたそうだ。現在陛下はメイファ卿率いる残存兵と共にノイシュタールへと帰還中であり、ノイシュタールからも予備兵力が陛下の迎えに急行中とのことであるから、まあ安心してよいようだ」
「そうでしたか……」

 ライはほっと胸を撫で下ろした。皇帝ヴァスパーの人となりを知るライは、今のシュヴァルツがいかに彼個人の才覚とカリスマに負っているかよく理解している。3年前に〝真シュヴァルツ”を名乗った反皇帝派の多くを粛清したとは言え、帝国はまだ再建途中でありまだ離反しようとする者がいないとも限らない。もし今皇帝を失えば、また内戦状態に陥ってしまうことだってあり得るのだ。

(!! ロゼアの狙いはそれなのか? いや、まさか……)

 ライの頭にそんな恐ろしい考えが浮かんだ時、ハラルドが1つ大きく咳払いをした。そのため、ライはそのことについてそれ以上考え続けることは出来なかった。

「とにかく、我が軍の主力が敗退しマルスグラードまでが陥落した以上、我々に出来ることは我々の守備範囲を死守することだけだ……それすら難しい状況ではあるがな。
 今はまだ一般市民に戦の結果は伝わっていないが、やがてマルスグラードから脱出した者たちがシュタールにも来るであろうし、人の口に戸は立てられん。我が軍が負けたことが明らかになれば、国民も動揺するだろう。我々は今まで同様東の国境を守りながら北のマルスグラードの動きに注意を払い、かつシュタール及び近隣の市町村の治安維持に努めねばならんだろう。
 戦力が半減している中でこれらの任務をこなせと諸君に言うのは心苦しいが、今は我慢の時だ――我々が耐えてさえいれば、必ず反転攻勢の時は来る。それを信じて、諸君がいっそう奮起してくれることを期待する。以上だ」

 ハラルドはそう言うと、きっと口を引き結んだ。


「大変なことになったね……」
「うん……」

 執務室を出て自室に戻る道すがら、まだ信じられないといった様子のターニャにライも同意した。
 何となく嫌な予感がしていた戦いではある。とは言え、前哨戦と言っていい出来事だったディートリンデの亡命事件において自分たちに出来ることを懸命にした結果、ローズ・スパインの流出を防いだ上にクラウ・ソラスのペネローペをロゼアから離反させることに成功したのだ。こちらもトゥアンの離脱など手痛いダメージを受けたとは言え、ロゼアの野望を1つ挫いたのだと思えば、胸を張って誇れないまでもそれなりに意味のある役を果たせたと内心では思っていたのである。
 それが、まるで自分たちのしたことなど大勢に影響なしと言われてしまったかのような大敗である。自分が戦いに参加して負けた訳でなくても、それはかなりショックなことだった。

(これからどうなるんだろう……)

 ライは口にこそ出さなかったが、息が苦しくなるほどの不安を感じていた。
 シュヴァルツは所有する封神騎の実に1/3を失い、あまつさえ戦力の要と言えるノイエ・テンプルの手練れの騎士2人とその乗騎であるS級封神騎2騎までも失ったのだ。対して、ロゼアは捕獲した封神騎をすぐには使えないであろうから純粋な戦力はまだ分が悪いにしても、今回と同じ作戦を取り得るというだけで戦略的には大きなプレッシャーを与えることが出来る。この1戦で、シュヴァルツ絶対有利と言われていた戦前の予想は完全に覆り、今後の展開が全く読めない状況になってしまったのである。
 だがライの不安は、それとはまた少し違うところにあった。
 果たして、自分は騎士として役に立てるのだろうか、奇策を用いたとは言えシュヴァルツ軍の主力を打ち破った相手に、自分とターニャとチャンドラの力が通用するのだろうかという不安である。

(強くなりたい……)

 ライは、今こそ切にそう思うのだった――。



 そしてまた、敗戦の報はアマールにも伝わっていた。

「何てこった、全然落ち着かないじゃないか」
「まあそう言わないでよ……がっかりしてるのは、あたしも同じなんだからさ」

 ようやく退院して隊に復帰したラクエルを前に、スヴェニーはぶつくさと文句を言った。
 ディートリンデの亡命未遂事件ではひとかどの活躍をしたと思っているスヴェニーである。前線が落ち着けば休暇がもらえるだろうと思っていたし、正直に言えば引き揚げたローズ・スパインは自分が1番に乗る権利があるとすら期待していたのだ。それが、ローズ・スパインはチェックのためノイシュタールの魔導科学アカデミーに送られることになってしまい――やむを得ないことだとは思うが――、その上今回の敗戦によって休暇返上が確定してしまったのである。
 今スヴェニーはパートナーがおらず封神騎に乗れないため、封神騎での哨戒任務は病み上がりのラクエルが1人で担当することになる。それについてはラクエルに申し訳なく思うが、何のご褒美もなく働かされ続けるのではモチベーションが保てないではないか。

「まあでも、休みくらいはあげられると思うわよ」
「え、そんな余裕ある?」

 ラクエルの言葉にスヴェニーは疑わしげに答えたが、ラクエルは確信を持って頷いた。

「この戦い、きっと長期戦になるわよ……シュヴァルツもロゼアもにらみ合いになって動けなくなるだろうから。それにね、そんな膠着状態の時は、隙を見せたら負けだけど、疲れきってしまっても負け。上手く休んで、気力を保った方が勝つのよ」
「……そっか」

 スヴェニーはにっこりと笑った。休みがもらえると聞いたからではなく、自分の隊長がとても頼もしく思えたからである。
 ラクエルは普段はいい加減に見えるが、それは力を抜いていい時と全力で取り組むべき時の見極めをきちんとしているからであり、強さや聡明さ、そして豊富な経験に裏打ちされているからこそそのように振舞えるのである。今やスヴェニーは、プライベートの時ばかりでなく、騎士として、そして隊長としてのラクエルも好きになっていた。その彼女がそう言うのなら、今はそれを信じてついて行くだけだ。

「ラクエルがそう言うなら、もう少し頑張るかぁ!」
「ふふふ、頼りにしてるわよ」

 ラクエルの言葉に力強く頷いたスヴェニーは、もう先行きの心配などしていなかった。


(続く)
 

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